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最高裁判所第三小法廷 昭和24年(れ)933号 判決

主文

原判決を破毀する。

被告人梅沢繁夫同遠藤五郎を各懲役四年に處する。

被告人両名に對し不法監禁、強姦致傷被告事件の第一審における未決勾留日數中各一五〇日をそれぞれ右本刑に算入する。

押收の匕首二振(昭和二二年押第一四〇三號の一、五)はいづれもこれを沒收する。

不法監禁、強姦致傷被告事件における訴訟費用は全部被告人両名及原審相被告人關口政一、同齋藤孝同真野兼二の連帶負擔とす。

理由

辯護人橋本順同布施辰治の上告趣意は末尾に添附した別紙書面記載の通りである。

辯護人橋本順上告趣意第一點及び辯護人布施辰治上告趣旨第二點、同第四點について。

論旨は多岐にわたるから、便宜上區分して説明する。

(一)強姦に際し婦女に傷害の結果を與えれば、姦淫が未遂であっても強姦致傷罪の既遂となり、強姦致傷罪の未遂といふ観念を容れることはできない。

原判決の認定した事実によれば、被告人等は杉山江美子を強姦することを共謀して同女を強姦し、且つ強姦をなすに際して同女に傷害を與えたというのであるから、共謀者全員強姦致傷罪の共同正犯として責を負わなければならない。原審相被告人真野兼二は、同女を姦淫しようとしたが同女が哀願するので姦淫を中止したのである。しかし他の共同者と同女を強姦することを共謀し、他の共犯者が強姦をなし且つ強姦に際して同女に傷害の結果を與えた以上、他の共犯者と同様共同正犯の責をまぬかれることはできないから中止未遂の問題のおきるわけはない。從って所論未遂に關する論旨は採用できない。

(二)次に杉山江美子の負傷は、被告人等の内誰の行爲によって生じたものか不明であるが、假りに被告人等の内の一人の行爲によって生じたものとしても、被告人等は同女を強姦しようと共謀して判示犯行をとげたのであり、そして強姦致傷罪は結果的加重犯であって、暴行脅迫により姦淫をする意志があれば、傷害を與えることについて認識がなくとも同罪は成立するのであるから共謀者全員が強姦致傷罪の共同正犯として責を負わなければならないことは前に説明したとおりである、所論刑法第二〇七條は數人が共謀することなくして暴行をなし人を傷害した場合に關する規定であって二人以上共謀して暴行をなし人を傷害した場合に適用はない從って被告人等が共謀して強姦をなし且つ傷害を與えた本件に同條の適用のないことは明白であるから、此點に關する論旨は理由がない。

(三)杉山江美子が被告人等に強姦され、且つ傷害を與えられた事実は原判決擧示の證據によって明らかであり、被告人等の行爲は強姦致傷罪を構成すること論をまたざるところである。從ってたとい被害者杉山が告訴を取下げたとしても所謂親告罪でない本件において公訴を棄却すべき理由はないから、此點の論旨も理由がない、

(四)原審の認定した事実によれば被告人等は原審相被告人等と共謀して同一機會に杉山江美子を順次に強姦したのであるから、(真野兼二を除く)被告人等は自分の姦淫行爲の外他の被告人等の姦淫行爲についても共同正犯として責を負わなければならない、かような場合は一人で數回姦淫した場合と同様連續犯となるという考方もあると思われるが、數人が同一の機會に同一人を姦淫したのであっても全體を單一犯罪と見られないことはない、所論のように本件は連續犯と見るべきものであるとしても結局一罪として處罰されることになるのであるから、原判決が單一罪として處罰したのと同一結果となるわけであって原判決に影響を及ぼさないから破棄の理由とならない、論旨は採用しがたい。

辯護人布施辰治上告趣意第一點について。

しかし刑法第五四條に所謂犯罪の手段とは、或犯罪の性質上其手段として普通に用いられる行爲をいうのであり、又犯罪の結果とは或犯罪より生ずる當然の結果を指すと解すべきものであるから、牽連犯たるには或犯罪と、手段若くは結果たる犯罪との間に密接な因果關係のある場合でなければならない、從って犯人が現実に犯した二罪がたまたま手段結果の關係にあるだけでは牽連犯とはいい得ない。そして本件の不法監禁罪と、強姦致傷罪とは、たまたま手段結果の關係にあるが、通常の場合においては、不法監禁罪は通常強姦罪の手段であるとはいえないから、被告人等の犯した不法監禁罪と強姦致傷罪は、牽連犯ではない、從って右二罪を併合罪として處斷した原判決は、法令の適用を誤ったものではない。論旨は理由がない。

同第三點について。

所論の如く原判決は匕首二振を沒收せる旨言渡しながら、法律適用の部では沒收に關する法條を適用していないから、理由不備の違法があり。破棄をまぬかれない。本論旨は理由がある。

(その他の判決理由は省略する。)

辯護人布施辰治の上告趣意第三點の論旨理由があることは前記のとおりであるから刑訴施行法第二條舊刑訴法第四四七條第四四八條によって原判決を破毀し更に次のとおり判決する。

原判決の確定した事実を法律に照らすと、被告人等の所爲のうち不法監禁の點は各刑法第二二〇條第一項第六〇條に、強姦致傷の點は各同法第一八一條第一七七條前段第六〇條にあたるので強姦致傷罪については、その定める刑のうち何れも有期懲役刑を選擇し以上二罪は同法第四五條前段の併合罪であるから、同法第四七條本文第一〇條により重い強姦致傷罪の刑に同法第四七條但書の制限内で併合罪の加重をした刑期の範圍内で被告人両名を各懲役四年に處し、同法第二一條に從い、不法監禁、強姦致傷被告事件の第一審における未決勾留日數中各一五〇日をそれぞれ右本刑に算入し、押收に係る匕首二振(昭和二二年押第一四〇三號の一、五)はいずれも本件不法監禁罪の行爲に供したもので犯人以外の者に屬しないから、同法第一九條第一項第二號第二項によりこれを沒收し、不法監禁、強姦致傷被告事件の訴訟費用は刑訴施行法第二條、舊刑訴法第二三七條第一項第二三八條によって全部被告人両名及原審相被告人關口政一、同齋藤孝、同真野兼二をして連帶して負擔させる。仍って、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介)

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